ロシアの民話が基になっている紙芝居です。
「むかーし むかし 小さな山の ふもとに、ばあさまが、ひとりぼっちで くらして おりました」
これが、紙芝居の始まりです。
この「むかーし むかし」は、黄門様の印籠のように魅力的です。
これから始まるぞという期待感だけでなく、なんだか安らぎを感じます。
「おなべとことこ」の場合、この安らぎ感が最後まで続くのです。
ばあさまは、一人ぼっちということだけでなく貧乏です。
米だって底をついてしまって、おかゆを作ることもできなくなっています。
でも、ばあさまは、自分の境遇を嘆くことも、恨み言をいうことも、眉間にシワを寄せてけわしい顔をすることもありません。
おだやかな顔をしたままで、毎日活躍しているおなべを磨きます。
そして……
「おかゆをつくろうにも こめが ない。すまんが、しばらく おやすみじゃ」
なんてことを言うのです。
泣けます……こんな、ばあさまが不幸になるはずはありません。
あってはいけないのです。絶対に!
そうです。ここで活躍を開始するのが、ばあさまに抱きかかえられてピカピカに磨かれているおなべです。
期待通りに、おなべのおかげで、ばあさまは幸せになります。
ほんとうに期待通りであって、女王様になるなどといった期待以上のことはありません。
あってはいけません。
そんなことをばあさまは、望んでいないと思うし、似合わないと思います。
苦しい時におだやかな顔で、おなべに「すまん」と話しかけられる、ばあさまの幸せとは、いったい何だったのでしょうね。
老人ホームで、よみっこをした時、演じ終わった後に、おばあちゃんの一人が「いいお話だね〜」と言っていたのが印象的でした。
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