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  へっこき嫁ご (語り用)

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 もちろん、以下の「へっこき嫁ご」は、オリジナルの童話ではありません。
 もとからあった昔話を脚色したものです。
 アップする場所を、このコーナーにしただけだということをご了承ください。

 語りのスピードによって、20分から25分くらいの長さになります。
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       へっこき嫁ご (語り用) <chaury版>

 とんとんむかし。

 ある山の奥に、百姓の家が、たったの五軒しかない、小さな村があったんじゃ。
 そんなかにな、年頃になったセガレのおる家があってな。
 このセガレが、毎日、嫁ごがほしー、嫁ごがほしーっちゅうだよ。
 まー、年頃なんだから、しゃーねー。
 年頃の若い男が、「結婚してー、嫁ごがほしー」っつうのは、ちっとも、おかしなことじゃねぇぞ。ふつうのことだ。

 ただよ、この村には、年頃の若い娘が一人もいなかったんじゃ。
 そんだから、しゃーねー。村のみんなが、嫁ごを探すことにしたんじゃ。

 でもな、こんな山奥のよ、その上、貧しい村だったからよ、嫁に来るなんてぇ娘は、なかなかいねぇ。
 そんでも、めっかる時は、めっかるもんだ。
 その娘はな、峠を五つも、六つも越えた、遠い村から来たんじゃ。

 この娘が、いい嫁ごでな。器量はいいし、気立てはいいし、体も丈夫だときとる。
 体が丈夫だっちゅうのは、大切なことじゃぞ。
 百姓の家は、やることがいっぺいあっからな。

 そんなもんだからよ、喜んだのは、セガレだけじゃねぇーぞ。
 おっとーも、おっかーも、
 「うちゃー、三国一の嫁ごが来てくれた」っちゅうて、大喜びよ。

 そんでな、嫁ごは、みんなから大切にされたんじゃ。
 もちろん一番大切にしていたのは、セガレだけどな。
 仲のいいアツアツの夫婦ってもんは、この二人のようなもんじゃろな。
 こんなに仲のいい夫婦は、他じゃ見たことねぇぞ。
 
 まぁー、とにかくよ。嫁ごは、こんだけ、みんなから大切にされてもな、調子にのるなんてことは、いっこもなかったぞ。
 「ありがてぇーことだ」っちゅうてな、畑仕事でもなんでも、いっしょうけんめいになって働いていたんじゃ。

 ところがよ、日が経つにしたがって、嫁ごの顔色が、少しずつ悪くなってきたんじゃ。
 そんで、しまいに、すっかり元気が、なくなっちまった。

 み〜んなが、心配してな。
 「どうしたんだべか」
 「わりー病気にでも、なったんじゃねぇーか」
 「いやいや、子どもができただけだんべ」
 「いやー、あの顔色で、そんなはずはねぇーべ」
 村の中で、いろんな噂が、出るようになっちまった。

 けど、嫁ごはよ、セガレに対してもな、
 「なんでもねぇー、だいじょぶだー、心配ねー」っつーだけで、いつも通りに働いて暮らしていたんじゃ。

 でも、おっとーはな、
 (こりゃ、うまくねぇべ。嫁ごの体も心配だし、村のみんなに心配をかけちゃいけねぇー)、つうことでよ、おっかーに言った。

 「おっかーよ。やっぱり、女同士のほうがよかんべー。ちょっと、おめー、いい時によ、嫁ごと二人で話しをしてみろや」ってな。
 そんで、おっかーはよ、ころあいを見はからって、嫁ごに聞いてみたんじゃ。

 「おめぇー、最近、少し顔色がよくねぇーようだけんどよ、どっか、体にわりーところでも、あるんじゃねーか?」ってな。
 そしたら嫁ごは、
 「オラー、わりーとこは、ねぇだよ。体は、丈夫だ。でも……」
 言いにくそうにしている嫁ごに、おっかーは、言ってやった。
 「いいてーことがあんなら、なんでもいいから言ってみろ。言やー、体だって気持ちだって、少しは楽になるかもしんねぇぞ」

 そうすっと、嫁ごはよ、
 「オラー、嫁にくる前に、家の、おっかさんに言われただよ。
 オメー、嫁に行ったら……へぇー、こくでねぇ。
 へぇー、こいたら、家に置いてもらえなくなるからなって。
 そんで、オラー、いっしょうけんめいがまんして、へぇーを、こかねぇーようにしているだよ。
 顔色がワリーのは、そのせいかもしんねぇ」
と、こういうわけだ。

 そしたら、おっかーはよ、
 「なーんだ。そんなこったら、へぇなんか、がまんするこたぁねぇ。
 へぇなんか、誰でも、してる。しねぇヤツなんかいねぇ。
 へぇ、こきたくなったら、遠慮しねぇでいいから、ブーカ、ブーカ、ブーカ、気の済むまでこきゃいい。」
 こう言ってやった。

 そうしたら、嫁ごは、ホッとした顔をしてな、
 「そいつぁー、ありがてー。そいじゃ、こかしてもらうべー」
 そう言うとな、嫁ごは、さっそく、へをこき始めたんじゃ。

 そしたら、まー、
 ブー、ブー、ブー、ブー。ブー、ブー、ブー、ブー。
 ブー、ブー、ブー、ブー。ブー、ブー、ブー、ブー。

 次から次へとへをこいて、へが、止まんなくなっちまった。今までがまんしていたへが、いっきに、出てきたんじゃな。

 ブー、ブー、ブー、ブー。ブー、ブー、ブー、ブー。
 どんどんとへがでかくなって、とうとう、家の中に、嵐が来たのかと思うくらいの、大風が吹き始めた。
 お茶を飲んでた、湯飲みと急須が吹っ飛んで、蒲団や枕が舞い上がった。
 しまいに、目の前で話していた、おっかーまで、天井に吹き上げちまった。

 おっかーは、驚いた。
 いくら、へぇー、こいていいつったからって、まさか、これほどすごい、へぇだとは思ってねぇーもんだから、おっかーは、あわてて叫んだ。
 「へぇ、止めてくれー。へぇ、止めてくれー」

 天井にへばりついて、叫んでいるおっかーを見て、嫁ごも、あわてて、へを止めた。
 そしたらよ。急に、へを止めたもんだから、今度は、へが、逆戻りし始めた。

 スッ、スッ、スッ、スッ。スッ、スッ、スッ、スッ。
 いろんなものが、嫁ごの尻に、吸い寄せられていく。
 しまいに、おっかーの髪の毛まで、引っ張りこんじまった。
 そんで、とうとう、おっかーの髪の毛は、みんなとれちまった。

 「もうしわけねぇー、もうしわけねぇー」
 嫁ごは、泣きながら謝った。

 けどよ、おっかーはな、嫁ごを責めることはしなかったぞ。
 「いいから、いいから。気にするこたぁーねー。泣くこたぁーねー。
 それによ、へぇー、こいていいっつったのは、オラのほうだしな」
 嫁ごのことをなぐさめたんじゃ。

 おっかーは、それだけじゃねぇーぞ。
 他のみんなに、余計な心配かけるこたぁねぇ、つうことでな。このことは、誰にも言わねぇでおくことにしたんじゃ。

 ただよ、
 「この頭、なんだか見た目が悪くなっちまったなー」っちゅうてな、仕事をしてねぇー時でも、家の中にいる時でもなんでも、頭に手ぬぐいを、かぶっていることにしたんじゃ。

 でもよ、こんなこと、いつまでも隠せるもんじゃねぇぞ。
 おっかーの頭は、つるっつるになっちまったもんだからよ。ある時、セガレの前で、手ぬぐいが、するっと、とれちまった。

 そしたらセガレはよ、
 「おっかー、どうしただ。その頭は」
 驚いちまった。
 おっかーはな、
 「どうしたってーこともねぇさ」つって、なーんも話さねぇ。

 でもよ、そばにいた嫁ごがな、
 「じつはー、おっかーの髪の毛は……オラが、へをこいて、これこれこういう訳で、全部とれちまったただよ」
 みーんな話しちまった。

 そしたらセガレはな、
 「へぇー? へぇー? 
 へぇー、こくたって、ほどがあらぁ。なにも髪の毛がみんなとれちまうほど、へぇー、こかなくたって、よっかっぺーに」
 訳のわかんねぇことを言って、怒っちまった。

 そしたら、おっかーはよ、
 「いいから、いいから、怒るこたぁねぇ。
 この年になったら、髪の毛なんざ、あろうがなかろうが、どおってことはねぇーんだから」
 そう言って、なだめたんだがよ、セガレは、おさまらなかった。

 「いやー! そんなにすげー、へぇじゃよ、危なくてしかたねぇじゃねぇか。
 これからだって、何がおこるかわかんねぇぞ。
 毎日よ、目の前に鉄砲をつきつけられているようなもんじゃねぇか。
 オラー、オラー、オラー、決めた。……嫁ごと別れる!」
 一瞬の間に一大決心をしてしまったセガレは、嫁ごに言った。

 そうすっと、嫁ごはよ、
 「ああ〜、しかたがねぇ。……オラが、へをこいたのが悪かったんだ〜」
 そう言うとな、身の回りのしたくを始めたんじゃ。
 セガレはよ、
 「送ってってやっから」
 そう言うとな、したくの出来た嫁ごと一緒に、家を出たんじゃ。

 嫁ごの村は、峠を五つも六つも越えて行かなきゃなんねんだから、とにかく遠い。
 そんなもんだから、くたびれるとよ、ところどころにある茶屋で、お茶の一杯でも飲んで、ゆっくりと休みながら歩いて行ったんじゃ。

 けどよ、二人とも、ひとっことも話しをしねんじゃ。
 まー、話しをしなくてもよ、歩いていりゃ、前には進む。
 そんでな、道のりの半分くらいの所にある、峠の茶屋に着いたんじゃ。

 その茶屋にはな、米屋と反物屋と小間物屋が、ゆっくりと休んでおった。
 茶屋の横には、大きな柿の木があってな。柿の実の、あまーいにおいが、ぷんぷんと、あたりにただよっておった。

 その柿の木を見ていた米屋が、茶屋のおやじに声をかけた。
 「おやじよ。あの柿の木には、うまそうな柿が、いっぺーなってるけどよ。あんなに、たけー所にしかなってねぇーじゃねぇか。
 手ごろな所に枝はねぇーしよ。
 あれじゃ、柿をとろうったって、なかなかとれねぇんじゃねぇか。
 いったい、どうやって柿をとってるんだい?」

 そしたら、おやじはよ、
 「いやいや、その通りなんで。
 なげー竿を持ってきたって届きゃしねぇし、登るったって容易じゃねぇ。
 そんだから、しゃーねぇ。
 柿が落ちてくるのを待って、落ちてきたら、拾っちゃあ食うだよ」
 こういうわけだ。

 それをよ、嫁ごが聞いていたんじゃ。そんで、思わずつぶやいた。
 「な〜んだ、あんな柿だったらよ、オラが、へをこきゃ、みんな落っちまうだよ」

 それを米屋が、聞いていたんじゃな。
 「いやー、へをこいただけで、あの柿をみ〜んな落とせんのか?
 そんなことができるんなら、見てみてぇもんだ。
 ほんとに見ることができたらよ、オラが連れてきた馬と、馬がしょっている米を、ぜ〜んぶくれてやってもいい。
 へぇーで、柿を落とすなんて、そんなに、すげーことを見ることができるんなら、冥土の土産にだってならぁ。
 ぜんぶ、くれてやっても、おしくはねぇ」

 それを聞いていた反物屋もな、
 「なんだー。へぇーで、あの柿を、ぜんぶ落とせんのか?
 そいつぁー、すげー。
 そんなことが出来るんなら、オラだって、見てみてぇ。
 オラも、むこうの村で、売るべぇと思ってしょってきた反物がいっぺーあっからよ。ほんとに、見ることができたら、この反物を全部くれてやるべぇ」

 そうしたら、小間物屋もな、
 「そんなことだったら、オラだって見てみてぇ。
 オラだって、売るべぇと思ってしょってきた小間物が、いっぺーあっからよ。ほんとに見ることができるんだったら、これを全部くれてやるべぇ」

 こういうことになった。
 三人とも盛り上がっちまってよ、
 「見てみてぇ、見てみてぇ、見てみてぇ」つって、大騒ぎになっちまった。

 嫁ごは、
 (いやー、えれぇーことになっちまったな〜)
 こう思ったけどよ。周りが、こうなっちまったら、しかたがねー。

 すっくと立ち上がってよ、
 「そんじゃー、やってみっかー」
 礼儀正しく言うとな、ススーっと、柿の木の下に歩いていって、くるっと振り向くとよ、腰をスッと落としたんじゃ。

 そして、おっかねー顔をしたかと思うと「ふん!」とふんばりよった。
 そしたら、出たぞー。
 ブー、ブー、ブー、ブー。ブー、ブー、ブー、ブー。
 ブー、ブー、ブー、ブー。ブー、ブー、ブー、ブー。

 すげー、へをこき始めた。
 柿の木が、ザワザワザワーっと、ゆらいだかと思うと、柿の実が、
 パタパタ、パタパタ、パタパタ、パタパタ。
 パタパタ、パタパタ、パタパタ、パタパタ。
 あっという間に、一つも残さねぇで、み〜んな落っちまった。

 米屋も反物屋も小間物屋も、びっくりしながら、それを見ていた。
 目の前で見ていたもんだから、しかたがねぇ。
 まさか「くれてやるべぇ」と言ったものを「よした」とは言えねぇ。

 三人とも、口をそろえてよ、
 「いや〜、おめぇーが言った通りになったんだから、しかたねぇ。
 オラたちも言った通りに、これはみんな、やるべぇ」
 こう言ってな、嫁ごは、馬も米も反物も小間物も、み〜んな、もらうことになっちまった。

 これをよ、ずーっと見ていたセガレは考えたぞ。
 (オラー、嫁ごと別れるベーと思って無理矢理連れてきたけどよ。
 へぇーのことがなかったら、嫁ごのことを嫌いになったわけじゃねー。
 それどころか、今だって、大好きだー。
 でも、あんなにすげー、へだかんな〜。危なくてしかたねぇーじゃねぇか。
 オラの家だけじゃねぇーぞ。村全部が、おっかねぇーめに、会うかもしんねぇんだぞー。
 でもよ。へぇーも、こんなに役に立つことがあるんならよ、へぇーも使いようなのかもしんねぇなー)

 そう思ったセガレはよ、嫁ごに言ったんじゃ。
 「オラといっしょに、また村へ帰るべー」
 嫁ごは、きょとんとしとる。

 そんで、セガレは、また言った。
 「おっかーも、『いいから、いいから』って言ってることだしよ。またー、オラといっしょに、村へ帰るべー」
 そんでも嫁ごは不信そうな顔をして、じーっとセガレの顔を見つめているだけじゃ。

 そんで、セガレは、もう一度言った。
 「オラが、オメーといっしょに帰りてぇーだ。また、オメーといっしょに、暮らしてぇーだよ」

 そしたら、嫁ごは、うれしそうな顔をしてよ、
 「そんじゃ、そうすっか〜」
 こう言った。

 セガレと嫁ごはよ、もらったばかりの反物と小間物を、それぞれがしょって。米をのっけた馬を引いて。二人で仲良く並んでよ、いっぺー話しをしながら、帰っていったんじゃ。

 セガレはよ、村に戻ると、おっとーと、おっかーに言った。
 「オラー、嫁ごと、別れるべぇと思ったけどよ。へぇーも役に立って、こんないいこともあっからよ。また、嫁ごといっしょに帰ってきただよ」

 そうしたらよ。おっとーも、おっかーも、
 「いいだよ、いいだよ。いいじゃねぇかよ」
 こういって喜んでくれた。
 おっとーも、おっかーもよ、やっぱり、嫁ごのことが大好きだったんじゃな。

 そんで、それからよ。みんなで、嫁ごのへぇーの使い方を考えたんじゃ。

 例えば、大根なんかはよ。土ん中に、ほとんど埋まってっから、引っこ抜くのは大変だべ。

 でもよ、嫁ごが、大根の首根っこをつかんでな。腰をちょいと落としてよ。ブッと、へをこくんじゃ。
 そうすっと、簡単にスッと抜けちまう。

 畑に、ズーっと並んでいる大根だってよ。
 嫁ごが畑の中に入っていってな、
 へをブッっとこいて、スッっとぬく。ブッっとこいて、スッっとぬく。
 ブッっとこいて、スッっとぬく。ブッっとこいて、スッっとぬく。
 次から次へ引っこ抜いて、あっという間に、仕事は終わっちまう。

 こんどはよ、抜いた大根をそのままにしておくわけにはいかねぇべ。
 家まで運ばなきゃなんねぇ。
 こんなもん、ふつうに運んだら容易じゃねーけどよ。
 嫁ごが、へをこけば、大根なんざ、簡単に家までふっ飛んじまう。

 ブッっとこいて、フッ飛ばす。ブッっとこいて、フッ飛ばす。
 ブッっとこいて、フッ飛ばす。ブッっとこいて、フッ飛ばす。
 次から次へフッ飛ばして、あっという間に仕事は終わっちまう。

 こんな感じでよ、なんにしても、嫁ごのへぇーが、役に立つようになってな。
 いろんな仕事がはかどるようになったんじゃ。

 よく、「へのようだ」っちゅうことを言うべ。
 こりゃよ、こんなふうに、わけねー仕事だっちゅうことだな。

 まぁ、とにかく、この家と、この村はよ。へっこき嫁ごが、来たおかげで、ほんとうに幸せに暮らせるようになったんだと。

 まー、こういうこった。

 とっぴんぱらりんのぷー。
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